第3回 老朽化する社会インフラ再生のあり方2017年01月15日

はじめに
 今回は、この数年大きな課題となっている「老朽化する社会インフラ再生」を考えてみたい。
 ここで言う「社会インフラ(以下、単にインフラという)」は、道路、トンネル、橋梁、港湾、ダム、上下水道、公営住宅など、多岐にわたり、主管上も、国、県、政令都市、市区町村と幅が広い。   
 このテーマについては、当然ながら、広い視点と分野別の専門的、技術的検討を要する多くの領域がある。しかしここでは、厳しい財政事情の中で絶対的に要請される、「インフラ施設の建設費」並びに「供用開始以降の管理、修繕を含む運営費」の「徹底した節減と効果的な実行」に、検討の目標を絞る。なお、この場合、安全性はもちろん全ての質の維持が前提であることは言うまでもない。
1.インフラの現状
(1)ストックの状況
 わが国のインフラのストックは粗ベース約790兆円、分野別内訳では、橋梁、トンネルを含む道路33.2%、農林漁業12.7%、文教施設11.4%、下水道10.4%、治水8.3%などとなっている。道路が突出して高い(内閣府試算)。
(2)老朽化の状況
 わが国のインフラは、1960年代以降急速に投資が増加した。インフラの耐用年数は概ね、道路50年、公共住宅60年、上下水道45年で、現在は既に更新期にあり、今後老朽化は顕著になる。当然維持管理費や更新費は増加する。このまま推移すれば、現状年間約10兆円が、2030年には所要額約16兆円にまで膨張する予測である。
(3)インフラ再生の課題
 今後は、膨大な既存のインフラを維持・管理しつつ、必要な新規インフラも建設して行かなくてはならない。厳しい財政事情の中、この両方を如何にして行うか?
 決め手は、費用の発生源であるインフラ施設の総量を、「必要にして最低限のものに抑えること」に尽きる。具体的には、第一に保有施設を圧縮する (既存インフラ中不要なものの廃止。新規インフラの厳選)。第二に施設の質を維持しつつ建設費の低廉化を徹底する。両方の実行しかない。
 インフラの重要性と特殊性から、上記のような取り組みは容易ではない。しかしながら避け得ないことと思われる。万一インフラ費用の削減が不可能であれば、大事故の発生とこれによる経済社会の大きな混乱が懸念される。なお、以上の想定には大規模自然災害は考慮されていない。この課題解決には、政、官、民、さらに全市民も一体となり取り組むべきであろう。
2.対応策の基本的方向
(1) インフラマネージメントと再設計
①インフラマネージメント
 管理主体のそれぞれが、保有する全インフラの現状につき、部門別総量、活用の実態、老朽化の程度、維持更新のコスト、資金事情、などを総合的に把握する。これを基礎にして情勢変化に応じて経営的視点によるマネージメントを行う。
②点検
 点検の目的の第一は、異常の発見と事故の未然防止であるが、もう一つは上記インフラマネージメントのための現状把握である。実際には充分な点検がされていないケースが少なくない。点検は最優先の仕事である。
③インフラの再設計
 情勢に対応するためインフラの再設計は不可欠と思われる。再設計の具体的方向の一つとして、①減量、②機能転換、③横断管理、の3点が提唱されている。①減量は、今後の経済社会の規模に対して過大となるインフラの減量である。②機能転換は、既存インフラの基盤部分を維持の上、サービスの追加、変更である。③横断管理は、各種の個別インフラの分野をまたがり横断的に管理する仕組みの構築である。
(2)インフラ整備対応の段取り
 老朽インフラ対応は長期戦を覚悟すべき課題である。
 しかし、今日、明日の急を要する対象もある。部門毎に実情を調査し、一定期間内(例えば3年以内)に緊急に実行すべき対象を抽出する。この期間は、原則として新規案件はすべて凍結し、資金を緊急対象に集中する。思い切った方針が必要である。この一定期間(例えば3年間)に、喫緊対策の実行と並行して出来るだけ早期に前述の「インフラマネージメントとインフラの再設計」を検討して方針を決定する。
3.対応策の具体的、効果的実行方向
(1) 役割分担
①官 (官庁等) と民(民間企業等)の分担
 まず、以下2点の前提を確認しておく必要がある。
 第一は、対象となるインフラ事業は赤字資質の事業の典型であるという点である。例えば、非料金型(一般道路等)は費用100%の赤字事業であり、料金型(有料道路等)の多くも、費用の大半に相当する大幅な赤字事業である。
 第二は、官は様々な形であろうと「公共的利益を求める⇒赤字事業の担当可」である。一方、民は如何なる形であろうと「事業利益を求める⇒赤字事業の担当不可」であるという点である。
 この前提をもとに考えれば、インフラにおいては、一部で言われているような「官民の連携=PFI(Private Finance Initiative)等の手法で民が一部を担当する」仕組みは望ましくない。なぜならば、総費用は民間の利益分だけ確実に割高になり、これはVFM(Value For Money=税金の最有効利用)の原則に反する。つまり、税金で特定民間企業の利益を捻出するもので、市民、納税者の納得を得られる方策ではない。ではどうするか?
ア.仕組みのありよう
 インフラは事業の性格上、官が前面に立ち責任を持って担当する最重要な業務の一つである。民のかかわりもこの一環のはずである。よって、この仕組みは「官、民の連携」ではなく「官への民の協力」とする。責任は専ら官側に置く。
イ.官側のありよう
 官は、真に効果的なインフラ対策を立案し信頼に足る状況をつくる。民が参画する場合には、必要に応じて計画策定に民の知恵を活用する。事業継続に必要な最低限の費用 (一定の手数料を含む) を担保する、一方で民の利益は認めない。
ウ.民側のありよう
 民は、インフラについての官への協力をビジネスチャンスとは位置づけず、事業利益を求めない。わが国の経済社会の最大課題への正面からの協力と位置づける。これは、民が行っている「文化貢献」、「社会貢献」事業と比較しても、はるかに本業に近い事業と言えるであろう。
②官の中での分担(国、県・政令市、一般市区町村間の事情と対策)
一つには、自治体のニーズと、国の補助金の差配とにズレがある場合。
二つには、国の事業(例えば国道○号線)でも、費用的には自治体負担。
三つには、一般的に、地方には資金も人材も技術も不足。
これらの制約を、時間を要する「地方分権の論議」とは並行して、現実的かつ即効的に解決する当面の方策を見出すよう、知恵を絞るべきである。
(2) 効果的な投資の方法
①複数インフラの絞り込み
 同目的、類似目的の複数の事業は、可能な限り1事業に絞り込む。
 なお、当該地域に高速道路施設と新幹線と空港の3つの企画がある場合、自治体として3つ全てに組みするのが必要か、2つか、1つが妥当か。慎重な検討を要する課題である。これらに組みした自治体が、以降長く費用負担に難渋するケースは少なくない。
②事業採択の厳密な選定
 例えば、n【必要性】+b【効果】>c【事業費=財政資金の投入額】の判定式により厳密にチェックする。クリアしないものは事業採択しない。これは、民の設備投資においては当然なことである。ましてVFMに沿うべきインフラでは当然であろう。ただし、この作業のために、必要なインフラ整備が遅れてはならない。
③個々の事業の工事費圧縮
 期待するサービスと耐久性についての質を充分担保する。構造物の性能は、概ね「材料の品質」「構造形式」「施工」の3点で決まると言う。
 その上で工事費の低廉化を徹底する。その方法は個別事業ごとの次の4点の実行である。
 ア.合理的な仕様の選択、イ.最適な規模の選択、ウ.合理的な発注方式による業者決定、エ.丁寧な施行と合理的な(いたずらな長期化のない)工期。以上の徹底により、建設費を最大50%圧縮する可能性がある。
(3) 投資から回収まで一環した事業として把握する発想への転換
 本来、事業は設備の建設を終え供用開始すれば完了するものではない。以降、設備の耐用期間中の一定期間に投資資金を回収し、同時に設備が耐用年数を経た後の更新投資資金の準備をして、事業サイクルの第1期を終了するものである。この本質は、インフラであれ民の一般設備であれ違いはない。これを支えているのは、「設備の減価償却」と「維持・管理費の準備」であリ、これは事業計画の重要な内容の一つである。
 昨今の老朽化インフラ問題の核心の一つは、民間においては当然である「この発想と仕組みが欠落し、所要費用の準備がない点」にある。この是正はインフラ問題対応の最重要な事項と思われる。
 今後の更新と新規の設備投資においてはこの発想と仕組みをとり入れて、維持・管理費用の準備と減価償却費の留保による更新費用の準備を確実に実行するべきである。二度と資金の準備不足により老朽インフラ対策に難渋してはならない。インフラの担当は、「建設」と「維持・管理」を同一部局に一元化するべきである。これは、前述の「インフラマネージメント」の一環でもある。
  • 【キーワード解説】 減価償却

    【1】構造物、建物、機械装置などの資産は、使用できる期間(耐用年数)に老朽化し価値の減少が続く。これを毎期の費用として負担するのが「減価償却」である。これにより、耐用期間中の毎期ごとに当該資産のコストが発生する。このコストの把握と、これの損益計算書と貸借対照表など財務諸表への計上は、当該資産の「費用対効果」の検討上大変重要である。
    【2】一方これは、各種の引当金と同様に「資金支出」のない費用である。資金は内部留保され将来の更新投資の準備となる。この点が減価償却の重要な役割である。実際には、この資金が「借入金の返済財源」となり、将来、更新投資のときには、旧借入金は完済し終え新規借入が可能となる、という形で回って行くことが多い。
    【3】公会計には減価償却の概念がない。これが、官に企業会計を導入する必要性の一つの背景であった。
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