第10回 公共系企業の経営分析実務-3 (全5回)2017年10月15日
今回は、経営分析実務の内、「3.資料の作成依頼」、「4.資料の事前分析」について説明します。この両方の作業は、経営分析全体を左右する大変重要なものです。
3.資料の作成依頼
3-1.依頼資料の実例
汎用の実例は以下の通りです。留意点は次の「3-2」において説明します。
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【依頼資料】
Ⅰ.自治体(市町村)関係
・首長名と略歴
・組織
・人口、産業構造
・財政状況
・合併の経緯
・地図(施設の位置明示)
Ⅱ.会社関係
1.会社概要(最近期末現在)
・会社名、設立時期
・資本金
・株主 株主数・大株主内訳(持ち株数と比率)
・役員 代表権・常勤、非常勤の別、兼務先、出身別等
・従業員 プロパー、派遣、パート等全てを含む
2.沿革
・設立の経緯(目的、背景等)
・設立以降現在までの、資本金、株主構成、主要役員、事業内容、収入、損益等の主な変遷を時系列に記述。
3.部門別、施設(設備)・業務・従業員の概要
(最終頁に掲載の【付表】に、所要事項を記載する。)
4.連続・部門別、営業、収支実績、並びに同見込
(過去3期間の実績と当期見込み。必ず1表に連続して記載。前期比増減を記載する。)
5.連続・損益計算書、並びに同見込み
(過去3期間の実績と当期見込み。必ず1表に連続して記載し、同時に当該各期間の増減を記載する。また、自治体からの補助は内数で明示する。)
6.連続・貸借対照表、並びに同見込み
(過去3期間の実績と当期見込み。必ず1表に連続して記載し、同時に当該各期間の増減を記載する。)
Ⅲ.当事業と当社の課題と現在の対応策、並びに当方への要望
Ⅳ.その他
1.会社の定款と最近2期の定時株主総会資料。
2.例年総務省に提出する自治体の財政状況に関する資料、あるいは表。
【注】
1.金額単位は、規模に応じ適宜「百万円」または「千円」で作成のこと。
2.資料は、会社と自治体と共同して作成のこと。
3.以上Ⅰ、Ⅱ、Ⅲの各資料を1冊にまとめ、一連頁番号を付すること。(ヒアリング当日、参加者全員が共通して直ちに認識し、応答できるよう。)
4.定款、総会資料、総務省への提出資料は、別に提出されたい。 以上
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3-2.資料依頼の留意点
(一) Ⅰ.自治体(市町村)関係
公共系企業のありようは、当然、親元かつ事業の施主である自治体の姿勢によります。特に首長の関心度合いの大小は大きな影響を与えます。よって、自治体合併の経緯、当該事業と企業の経緯などと、首長の経歴とを、関連して把握することが重要です。
(二) Ⅱ.会社関係の「1.会社概要」「2.沿革」
当該会社に対する官民、また、官の中で県と市町村、それぞれの株主としての力関係は、この種企業において大変重要です。次に、経営者の内代表権者、常勤者のありようは、会社活動を大きく左右します。
沿革については、設立以降の業容の変遷、経営状況の好不調の経過が、良し悪し両面で、現状と今後に影響を与えることが多いようです。
(三) 会社関係の「3」
部門別、施設等の表は、「事業の評価=当該経営分析上最重要事項の評価」の基礎となる大変重要な資料です。この点は次の「4.資料の事前分析の説明」で詳述します。
(四) 会社関係の「4~6」
いずれも経営成果を計数的に表現する資料です。この項目について資料依頼上で特に留意すべきことは、( )書きで記載したことを、確実に実行してもらうことです。
この種の計数は、定期的に作成される別な書類(例えば、株主総会資料等)に記載されるので、これの数期分提出により代用されがちです。しかし、これは避け、あえて数期を連続記載する表を作成してもらうのが重要です。その理由は、第一に、作成者側も、数期連続してその間の増減を認識しながら作表することで、業績の推移の実態を、改めて把握できること。第二に、ヒアリングと討論の場において、共通の土俵で実効的な話ができるからです。
(五) 【注】に関して
3.に記載の通り、資料のⅠ、Ⅱ、Ⅲ、の各資料は、必ず1冊のファイルにまとめ、一連頁番号を付けること。これを、経営分析者側に提出すると同時に、自治体、企業、その他出席者全員が持参することを実行してもらって下さい。出席者が共通の資料を持たない故に、貴重なヒアリングと討論の時間を浪費した、苦い経験がありました。
4.資料の事前分析
これだけの資料を作成してもらう以上、経営分析担当者は全てを充分咀嚼すべきでありますが、ここでは、実務的に特に重要な領域の事前分析に絞り説明します。経営分析担当者は、以下の分析結果を一つの参考として、後日のヒアリングや討論に臨みます。
(一) 3.部門別、施設(設備)・業務・従業員の概要
■ 公共系企業の経営分析において最も重要なポイントは、担当する事業の評価です。具体的には、判定式 「事業の必要性【n】+効果【b】>赤字補填額【c】」 をクリアするか否かの判定です。3の【付表】は判定式の【c】算定の基礎です。
■ 市町村の場合、事業施設は自治体が所有し、企業は自治体からこれを借用して事業を行うのが一般的です。そして、企業の業績に応じて、施設借料の免除が行われます。この免除額が、判定式の【c】の基本です。算定の手順は次の通りです。
■ 当該事業施設の簿価と建設時時期から、年間の減価償却費と金利負担を推計します。これは企業が自治体に払うべき施設借料の全額です。仮にこれを「10」とした場合、借料全額免除の場合の【c】は「10」。これでは不足でさらに「3」の追加補助を要する場合は「10+3=13」。一部免除で「6」支払の場合は「10-6=4」。と概算します。
■ なお、必要性【n】+効果【b】は、種々の算定方法がありますが、実務上は、「雇用効果」と「地元産品の使用効果」の2点の活用が即効的です。
(二) 4.連続・部門別、営業、収支実績、並びに同見込
これは、当該企業の経営上の根幹です。好採算部門と不採算部門の構成、それぞれの現状の推移、その間の経済社会情勢の変化、今後の経営戦略など、課題の整理をします。
(三) 5.連続・損益計算書、並びに同見込み
最も重要なことは、純損益が黒字を安定的に維持しているか否かのチェックです。それに関連して、自治体の施設借料の減免折衝は円滑であるか否かです。
何故ならば、施設を持たない(=減価償却費負担のない)企業である故に、純損益の赤字は、即、経営破綻を意味するからです。言い換えれば、常時の黒字維持が、存立上の絶対条件です。
(四) 6.連続・貸借対照表、並びに同見込み
最も重要なことは、取り崩し可能な現預金(=日々の営業上の手持ち現預金とは別に)の所有のチェックです。その理由は前述の通りで、万一の場合の対応策が必要だからです。
一方、構造的な分析のためには、B・S(貸借対照表)の各科目の増減を整理して、資金収支表を作成するのも一つの方法かと思います。【収入】は、資産科目の減少と負債科目の増加であり、【支出】は、資産科目の増加と負債科目の減少です。これを対象4期間につき作成します。何かが見えるかもしれません。
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