3.人に仕えるとは2017年11月15日

 
どんな人でも組織加入後間もなくの新人時代から、業務を統括する上司に上り詰めるまでに長年を要し、同時に多大な経験を積む機会が与えられます。その間の人の成長プロセスにおいて、組織の中の平役の新人は、担当する仕事内容はどのようなもので、またいかなる業務指導を受けるのでしょうか。この事柄は意外と知られておらず、また重要視もされなかったようです。人に仕えることとは、まさに平役の新人の通過儀礼に相当する事柄として、見過ごされてきたようです。
◇平役である新人の役割は何
一組織の中でトップの立場の人の考え方や行動規範などは、リスク管理の面、あるいは社是の内容等から、どんな企業でも広く周知がなされてきたようです。他方、平役(無役ではない)の新人の役割は、明確に規定されたものは無いようであり、不明な点が多く、実習、研修等のOJTによる訓練が代表的であるようです。つまり新人の担当する業務範囲は、余りにも広範な業務のため必要性が低いのか、必要人材ネットワークからはみ出た職種であるためか、訳が不透明な一構造グループの扱いとなっているように思えます。この現況において、何をどのようにこなせば組織の他構成員から十分に仕事を熟していると認められるのでしょうか.さらに、組織の業務を下支えするには、どのような心構えをもち、基礎訓練をクリアーすればよいのでしょうか。

これを議論するため、基準条件を想定します。本論では凡そ、仕事の内容とその対価としての給与は線形関係にある場合のみを対象とし、組織内部の構成人数は上司と部下の2名のみとします。このように条件が少ないときでさえ、異なる角度から検討した場合、その影響が非線形的に生じます。この場合、組織内の究極の業務とは、互いの構成員がそれぞれ対人の仕事について熟知し、理解した内容を適切に対処できたかどうかに由るでしょう。あるいは、対人の業務内容を第3者が納得できたかどうかに依存するでしょう。このように最も単純化された構造の組織では、仕事の決済や業務伝達の流れについて、発信側と受信側の均衡のみを考えれば、内容の質の程度や不具合の発生頻度が十分把握できるものと思われます。そこで、人に仕えるという事柄は、上述した内容の徹底に依存すると言ってよいでしょう。

◇人に仕えるために必要な個人の基礎力
『人に仕える』ために必要な個人の基礎力は、どこで、どのようにして獲得すればよいでしょうか。もう一つ、働き手はどれだけの能力の蓄積が業務の出発点(平役の新人時点)で必要であると考えておけばよいのでしょうか。
これを考える上で、前述した労働力を提供した対価として収入を得るという基本行動が考え方の根本です。したがって、自覚に基づいた労務行動ができるように自立する体制を作っておく必要があります。そのために、以下に示す事柄を把握しておくことが望まれます。
〇 どんな基礎力や学力をどこで修得するか
本論で考慮中である内容と考え方が類似している内容のコラム記事を、まず紹介しておきましょう。
① 2015.12.18 日経 コラム(大機小機)、『若者に基礎力養成の時間を』
このコラム記事によれば、まずは何が何でも、若者に基礎力養成の時間を与えてみることが先決である、と強い口調で述べられています。若者(平役の新人と同等)の代表として大学生を考えると、これらの人材は文句なく学問精進を本旨にすべき人材と考える必要があります。すると、獲得しつつある学力は基盤として高度な教養が備わった人材が修得する内容であることが期待されます。もちろん、高度職業人として必要な専門教育内容とその基礎体力を同時に身に着けておかねばなりません。また、若者が占有する空間である大学は教育と研究のいずれを重視するかによって、さらに、グローバル化への対応はどう考えるのか、また地域に特化する教育か、あるいは基礎学問に徹するか、など検討すべき事柄が多く、大学における学問の方向性は混迷しているように見受けられます。いずれにしろ、若者には大学が人間力を養う時空間として、じっくりと青春時代を謳歌して欲しいものです。
〇 基礎力養成機関としての役割
一方、大学とはどういうところであれば役割を担っていると言えるでしょうか。
人がある組織に所属しながら本人の能力を十分発揮して業務を滑らかに進めることが出来たならば、その本人は上司やある組織から信頼され、一般には着実に出世の階段を上っていくと思われます。このような状況が連続する状態を推察すれば、結局若者はスタート時における本人の力の蓄積こそ、重要な財産であることになります。その保有する基礎力は個人が投資して得た資産の集積といえます。以上から、一口で言って、大学は優れた社会人になるべき基礎体力を若者が身に着ける場として認識することが妥当な考え方であるでしょう。
もう一つ大切な事柄の関係性について、考えてみましょう。つまり、これについても詳細には掘り下げられてこなかった課題である、大学で学んだ専門教育と企業に入社後それが仕事の解決に向けてどのように役立つのか、検討しておく必要があります。これについても、類似の課題を検討したコラム記事がありますので紹介しておきます。
② 2017.10.20 日経 私見卓見 『就職時に学習歴の物差し必要』
この記事によると、最近話題に上っている「人づくり革命」と「働き方革命」を結びつける検討会が、政府を中心として動き出したようです。このことは、大学で身につけた学問が社会でのキャリアアップに直接結びつく枠組みを作り上げることが望まれてきたからです。検討が始まったのは良いことですが、内容はずいぶんと遅れているように思えます。

さて、政府内で検討中の制度は、欧州連合EUの域内で、主に大学など高等教育と労働市場をつなぐ「欧州共通の資格の枠組み(EQF)という制度」として考案された内容を土台としているようです。内容は、学習者(若者という学生の枠に留まらず、学問を改めてやり始める層を含む)の習熟レベルを8段階に分け、知識やスキルでどのレベルにあるかをEU圏全体で新卒や転職時の基準として利用している画期的な内容です。何をどの程度学んだかという(学習歴、専門の深さ、取得した総単位数など)が物差しになっています。実は、日本でも一部の専門学部では同様のことが始められているようです。このような学習歴によるチェックは、工学系の専門分野では随分早くから進めていましたが、実質が伴わない結果でした。ところが、欧米各国の大学が連携を取りながら、実質化を含めて推進した結果、実を結ぶような結果が出始めています。

◇地位により担う役割の違い
これまで、人に仕えるにはというタイトルで要約的な内容を述べてみました。再度まとめておきましょう。人は担う役割は地位により異なることは明白です。これは単に業務の重要さ、あるいは所得の格差によるものではなく、人の成長に密接に関係していることから推察が出来ます。
まずトップは謙虚さが求められます。これはトップに立つ人は手本となるような行動が求められ、仕事の内容というよりも倫理観、哲学を通じた指導力が基本となるべきであるからです。であるからこそ、支える立場の人は表向きそれに文句も言わず、忠実に下支えしてくれると思います。次に中堅どころの働き手は企画力が勝負のしどころと言えるでしょう。組織の全体像がある程度把握できている人の役割は、結局仕事内容において差別化できる内容がどれほど盛り込まれているかで、時間的にも経費的にも、これまでと断然異なる事柄が生まれる可能性を見出すからです。さらに、若手の新人の役割はと問われれば、何といってもがむしゃらさが滲み出るような機転の利き方や物腰の軽さが目立つ事柄でしょう。あの若者に任せれば信用できる、というレベルにまで到達した人の雰囲気は絶大なものに変化していくのは間違いありません。このように、同じ組織に加わっていても、地位が人の役割を峻別するといって差し支えありません。

〇 社会人基礎力(経済産業省)
本論においても、基礎力の大切さについて繰り返し述べていますが、実社会の仕事に対し関連付けたものとして、経済産業省ははっきりとして分り易い内容に纏めてくれています。これを検討しておきましょう。
社会人基礎力として、3項目の力を表現しています。簡単に復習を加えて確認をしておきましょう。内容は、「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チームで働く力」の3つです。前に踏み出す力とは、意思、行動力、達成感などに裏打ちされた事柄で、自分の考えに基づき計画し、行動した後、振り返り、ゆっくりと達成感を味わうといった内容でしょうか。次に、考え抜く力とは、徹頭徹尾考え抜いたのち、自分の興味が向く所に従って進み、行動した後の楽しさを経験するといったところでしょう。もう一つ、チームで働く力とは、自分一人で仕事を抱え込むのではなく、協調性をもって仕事を分担し、仲間の仕事ぶりを見ながら協力し合い、心づかいを働かせることでしょうか。以下に、3項目を列挙し、互いの関連性を指摘しておきます。

〇 前に踏み出す力(意思行動力 達成感  ・・・感動からの勇気)
〇 考え抜く力  (頭が強い 興味 楽しい・・・強みを生かす )
〇 チームで働く力(協調性  思いやり  ・・・利他の精神  )
〇 人の繋がり(ネットワーク)
組織が継続し続け、社会に対して機能を発揮し続けるためには、人の繋がりがとても大切な事柄です。これにはどんな注意を払うことが必要であるのでしょうか。下記の2点に注目して進めてみれば、案外面白い方向が見出せるでしょう。

〇 強固な人の繋がりネットワークが必要 (機能の発揮と保持)
〇 組織は志のある人の集団の方向性が決定的役割を担う

① 他組織から見て有益な情報発信をしているか
ダイナミックな環境下にあるか (非平衡、非線形)
② 新しく面白い注意を惹く情報か (パターン化、カオス化)

注意すべきことは、すべての事柄は、すべての始めがあり、終わりがある事でしょう。ただし、仕事の流れは常に連続であり続けます。
〇 付録
『人に仕えるとは』、と題した内容で、筆者の考え方を書き連ねてきましたが、一つだけ書くべき内容でありながら躊躇し、後送りにした内容が残っています。そこで、付録記事として、本論の内容とは関連性が薄いように見えて、その実強い関連性を持つ事柄を書き添えておきます。
(論語 ,金谷修 監修、岩波文庫) 巻第四、述而 第七の二四 『子以四教、文、行、忠、信』
子、四つを以って教う。文(読書)、行(実践)、忠(誠実)、信(信義)

ここで、文とは、書を読み、学問に精を出すことでしょうか。行とは、規律正しい実践であり、知識にとらわれず、行動が常に結びつくことが大切であることを述べています。忠とは、どのようなことでも承り、それを形に整えていくために必要な誠の精神を貫くことと言えるでしょう。最後に、信とは、信頼に値する事柄を対人に尽くすためには、義の根性を以って接することが大切であるとといているかと思います。
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