第11回 公共系企業の経営分析実務-4 (全5回)2017年11月15日
今回は、経営分析実務の内、「5.現地実査とヒアリング」について説明します。これは、言うまでもなく本件実務の中心的な仕事です。前述の通り1泊2日の日程です。
5.現地実査とヒアリング
(1)心すべきこと
経営分析担当者は、事前準備から成果品提出までの全てにおいて、決して「上から目線」にならぬよう留意しなくてはなりません。適切な分析のための必要条件です。特に、現地への出張では、自治体と企業の関係、首長と自治体職員の関係など、部内事情の把握も仕事であり、何等かの助言を要する場合もあるので、一層心すべきです。
(2)行程表の作成
出張前に、先方(一般に、当該自治体担当部局の担当者)と相談して1泊2日の行程表を作成します。その中に、①事業所の視察、②自治体並びに企業とのヒアリング、③討論、を折り込みます。当然、案件ごとに事情が異なる(事業所数の多少など)ので時間配分には緻密な計画が必要です。
なお、その間の昼食・夕食などの場は、できるだけ自治体並びに企業と、共にするのが良いと思います。本音を期待できるからです。ただし、費用その他、充分配慮すべきことは言うまでもありません。
(3)事業所視察
(1)事業の種類
多種多様です。実例が多いものは、道の駅、ホテル、温泉施設、レストランの経営であり、ホール、体育館、文化会館、公園、キャンプ場、その他野外施設、等の管理運営も数多く見られます。また、製造、加工としては、パン工房、食肉加工,乳製品製造、木材加工などがあります。農業畜産業としては、養鶏、養鴨、養豚、各種きのこ類の栽培等があります。数は多くないけれど、鉄道事業、船舶事業、バス事業等の交通関係もあり、水道事業、農水産物市場、廃棄物処理関係施設など、社会インフラ整備の分野もあります。
(2)現場で実行すべきこと
依頼企業の営む事業について、基礎的な知識と同業他社の実情を認識する準備は必要でありましょう。
しかし、すべての業種について熟知することは、事実上無理です。またそれは、必ずしも不可欠な条件ではありません。事業所視察において実行が必要なことは、次のことと思います。
① 時間の許す限り、全ての事業施設の視察が望ましいと思います。そして、個々の現場で、それぞれの専門担当者に案内され、教えてもらうことです。
② その時に注視すべきは、操業、営業状況の好調,不調の印象もありますが、それ以上に重要な一つは、職場の空気、意欲の状況です。これは、企業運営の健全性の良し悪しを表します。また一つは、装置、材料、商品などの整理、整頓の状況です。例えば、ホテル事業の場合、厨房の様子は料理部門の商品価値と原価に、大きな影響を与えます。また一つは、事業所の、自治体あるいは企業本部に対する意識(例えば、注文など)です。
(4)ヒアリングと討論
原則として、提出してもらった資料に沿いヒアリングを進めます。以下、必要質問事項を記述します。
(1)自治体から聞くこと
① まず、当該自治体の概要。その時、前回の3-2で説明した様に、現首長の就任時期と対象企業の事業のスタート時期に注意します。
② 自治体合併の経緯と、対象企業と事業の変遷。例えば、依頼先自治体Aと、合併自治体B,C,との経緯。企業a,b,c,d,の設立経緯(どの自治体が設立したか)と以降現在までの推移。各企業の代表取締役、常勤役員、取締役会の頻度など。
③ 企業各社の業務概要。事業内容、設備状況、経営状況、を把握した上で、自治体としての各企業に関する今後の方針。設備の更新方針。
④ 必要な場合は、自治体自身の踏み込んだ考えを聞くため、自治体側だけとの会議とする場合もあります。
(2)企業から聞くこと
経営分析の土台となるものは、やはり営業、収支、財務の計数の把握と内容の分析です。よって、当該企業のヒアリングは中心でありましょう。
① まず、企業ごとの、株主構成、役員状況、沿革等。
② 部門ごとの、事業内容。具体的には、原材料、商品、半商品などの仕入れ、加工、販売等営業状況。
③ 部門ごとの、施設、従業員の状況。施設については、建設時期、簿価、更新時期、など踏み込むこと。従業員については、担当別雇用形態、員数、給与単価、人件費総額、など踏み込むこと。
④ 部門ごとの、公共的効果(=事業利益外の地域振興効果、例えば、地域価値の向上、環境是正、雇用増加、地元産品活用、など)。
⑤ 部門別の営業状況。黒字部門、相償部門、赤字部門それぞれにつき、全体での割合、最近数期の各部門の推移と今後の見込み。また今後の対策。
⑥ P・Lの科目別内容と損益状況を確認、最近期の実績推移と見込み。減価償却費の額、自治体からの補助の状況。特に、施設借料の減免状況とその折衝状況。一定の補助を前提として、今後の収支見込の良否とその原因。
⑦ B・Sの科目別内容,最近期の実績推移。B・S科目の増減による資金収支の内容。投資と預金中の取り崩し可能な額の確認。
(3)公共系企業の評価と討論
① 第9回コラム記載の、三セク(=公共系企業の一つ)の評価項目は、【1】事業の適否、【2】収支改良の成果、【3】必要最低限の収支、財務】の3点でした。
このうち、最重要なのは【1】であり、これは、
【n】必要性+【b】効果>【c】赤字補填額 の判定式のクリアでした。
この判定式は、上記の(2)「企業から聞くこと」の②~④のヒアリングで作成できます。例えば、【c】赤字補填額が30百万円、【b】効果は、雇用が20人×@2.5百万円(単価は過多でない)=50百万円。よって、雇用効果だけで判定式をクリア。と即刻判定できるわけです。判定式は詳細な実額が不可欠ではなくクリアか否かがポイントなので。
また、【2】【3】は、同⑤~⑦で判断できます。
以上の結果、今後も継続させるべき「良い三セク」と、抜本的対策をとるべき「悪い三セク」の選別が可能です。
② この答を念頭に置いて、依頼側自治体との所要な討論 (≒意見交換)を行います。
以上で、現地出張の仕事は終了です。
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