第13回 公共系企業の経営分析実務-6 (全6回*)2018年05月15日

7.企業会計方式へ置き換える一手間
この連載企画の冒頭「第8回の(1)」で、以下の様に述べてきました。
■ この経営分析において、対象の企業が企業会計方式によらない場合は、「財務諸表を企業会計方式に置き換える」一手間(ひとてま)が必要です。
■ 連載の最後にこれを説明する予定です。
 
今回のコラム第13回はこの企画の最終回です。予定通りこの点を説明して連載を締めくくりましょう。
1.一手間が必要な背景
(1)公共系企業の種類
 今回の企画の対象である公共系企業には、沢山の種類があります。主なものは次の通りです。

●官庁直轄、●官庁企業、●独立行政法人、●特殊法人、●特別法株式会社、●公共系民法法人、●自治体出資の株式会社(=第三セクター)等、企業形態は多種多様です。
 また、純民間企業でも、●PFI,指定管理者等の制度に関わる企業は、当該事業に関しては、広義の公共系企業と捉えても良いかもしれません。
(2)各公共系企業と会計方式
 この中で、既に長らく企業会計方式によってきた企業も少なくありません。具体的に言えば、企業会計の原点である、P・L(損益計算書)とB・S(貸借対照表)を作成している企業です。
 実例は、官庁企業の相当数(=法適用の地方公営企業)、特別法株式会社、自治体出資の株式会社(=第三セクター)です。また、公共系民法法人(例えば、自治体出資の財団法人、社団法人など)の相当数です。これ等に対しては「一手間」は不要です。

 一方、官庁直轄、官庁企業の相当数(=法非適用の地方公営企業)、公共系民法法人の相当数は、企業会計方式によっていません。「一手間」が必要です。

 なお、今年3月末には国の指導により、全国の地方自治体の大多数が、企業会計に準じた財務諸表を作成する状況になりました。官庁自身の会計方式について一つの大きな転換点を迎えたと言えます。
この影響は公共系企業にも及ぶと思われますが、十分な咀嚼と応用にはなお若干の時間を要すると考えます。
2.企業会計への置き換え
 企業会計への置き換えの題材として、地方公営企業法の適用を受けない、「法非適用企業」(比較的小規な地域における、下水道、簡易水道、観光施設、離島船舶、等の事業を担当する地方公営企業)を取り上げます。

 この企業を題材とした理由は、次の3点です。
第一に、適切な経営分析に必要な要件である、「フロー(損益状況)とストック(資産、負債状況)を、分割して把握する」課題を、浮き彫りにできること。
第二に、現状の会計方式の結論と、企業会計方式に置き換え後の結論とに、大きな相違があり得ること。具体的には、置き換え前では「経営不振」とされたものが、置き換え後では「経営は良好で財務も安定」と真逆であり、会計方式の差が鮮明になる事例だからです。
第三に、この種の企業はかなり多数(平成28年度末、5,343)なこと。

 以下、実際のケースを念頭に置き筆者が想定した企業を題材として、置き変え作業の説明を行います。いささか、ややこしい話が続きますが、付表を照合しながら、ゆったりと読んで頂ければ幸いです。
 なお、当企業は、単式簿記・現金主義の公会計方式によること、減価償却はないこと等、制度上の特性を持っています。以下、企業会計方式に置き換える作業を述べますが、目的は、専ら当企業についての適切な経営分析のためです。決して、企業形態と活用そのものを云々することではありません。
(1)現行会計方式での概要
 当企業は、ある地方都市における、小規模な地域の水道供給を行う「簡易水道事業者」です。現状方式による収支状況は、表1の通りです。
 大きく分けて、「収益的収支」と「資本的収支」があります。
「収益的収支」は、基本的には企業会計における損益計算書と同じです。純損益に相当する[収支差引A]を算出します。
「資本的収支」は、設備の建設等と債務の返済等の資金支出を、地方債や国庫補助金等の資金収入と対比して把握する形であり、細部(調達不足を[資本差引B]として計上する点)を除き、これも基本的には企業会計と同じです。

 ところが、これ以降のステップに、企業会計との大きな相違があります。
まず、純損益に相当する[収支差引A]と、資本的収支の調達不足である[資本差引B] を合算して、「収支再差引C」を算出します。ここで、フローとストックの混同がおきました。
 次に、上記Cの累積として「実質収支E」を算出します。具体的な算出方法は、Cに過年度の実質収支の累積額(表1のD)を加算して求めます。
 そして、この「実質収支E」を、企業の経営状況判定の最終結論とします。

 当企業の場合、創業から拡大の時期に多額な施設建設が必要であり、制度的な調達資金だけでは不十分で相当な資金不足が発生しました。これを町からの借り入れで償いました。これが多額な赤字(=町借入金残高)として累積し現在に至りました。その結果が、当期末の「実質収支E=▲84百万円」です。
 この状況について、「経営は不健全であり改善が急務」とされていました。
(2)置き換え作業、並びに作業後の経営判定
① 置き換え作業
 作業の結果は表2の通りで、「損益状況」、「資本的収入」、「資本的支出」、「町借入金」の4項目を、独立して設定します。
■ 損益状況
 ほとんど現表(表1)のままです。ただ一つだけ、大変重要なのに現状では無視されていた、[累積損益g] を新設します。これは、表1の [収支差引A] の累積額です。
■ 資本的収入
 「資本的収入」に二つの項目を加えます。第一は、[収支差引A] を、[当期純損益f] と名称を変更して新設します。調達財源の重要な一つです。第二は、表1の [資本差引B(=資金不足)] の名称 を、実際の動きの通り [町借入h] と変更して新設します。
■ 資本的支出
「資本的支出」に[町借入金返済i] を新設します。
 これで、「資本的収入」と「資本的支出」の額がバランスし、ストック領域の調達と支出が安定して整理されました。

■ 最後に、置き換え作業の最も重要なところを説明します。
第一に、表1の、C、D、Eの動きの全てを割愛します。これにより、避けるべきフローとストックの混同がなくなりました。
第二に、新たに「町借入金」を置きました。 これで、当企業の事業施設に対する財源の一つが、きちんと位置づけられました。
これで置き換え作業は完了です。
② 置き換え後の経営判定
■ 損益面では、黒字が継続されています。他会計からの繰り入れ (e=実質上の補助) を除外した自力損益でも、状況は変わりません。
■ 現状方式では、「実質収支E(=累積収支)」は▲84百万円と多額で、不健全な状態とされています。しかしこれは、負債( 表2「町借入金」の期末残高)であり、企業経営における累積損益ではありません。実際の「累積損益g」は、逆に140百万円の黒字です。当企業の損益状況は、健全であると言えます。
■ では、負債は多額で財務状況は不健全なのでしょうか?確かに、町の借入金残高(84百万円)は小額ではありませんが、返済が借入を上回り、残高は減少の軌道上にあります。
■ また、地方債残高は約900百万円で、町借入金を加算したこの種債務残高の総額は、1,000百万円に近づいています。しかし、これが過大か否かを判定する鍵は、第一に、対応する資産である事業施設の質と規模、第二に、損益状況の質と規模です。判定の結果、当企業においては特に過大ではありません。財務状況も健全と判断して良いと思います。

 結論としては、置き換え前の表1による判定の「不健全」に対して、置き換え後の表2による判定は「健全」と、真逆な答えになりました。
(3)題材とは異なる「法非適用企業」への対応
① 題材のケースとその他のケース
 ここまで、題材にして検討の対象としてきたものは、損益補助も少額で、これを除外した「自力損益」も黒字のケースです。このケースをあえて選んだのは、「会計方式の差」と「置き換えの効果」を浮き彫りにするためでした。
 よって、これが「法非適用企業」一般ではなく、多額の損益補助 (=他会計からの繰入など) により黒字決算としているケースも少なくありません。
② 自力損益が赤字のケース
 事例として、公表決算では純損益(=収支差引)は10百万円の黒字、補助金 (他会計繰入等) は40百万円、補助金を除外した自力損益は30百万円の赤字、の企業を取り上げました。
 自力赤字ゆえに、二つのチェックが必要です。
第一は、企業性を発揮して、損益を改善する自助努力をしているか。
第二は、補助金40百万円を超える、公共的必要性あるいは効果があるか。
 これがクリアなら補助金による黒字化もOKです。仮に、ノンクリアなら、対応策の検討が必要です。なお、法非適用企業は、ライフライン ( 上下水道など ) の担当が多いので、第二は、クリアの場合が多いと思います。
 これで、前述した置き換え作業の中で、最重要なステップである「損益状況」が片付きました。以降は、各ステップを粛々と進めれば良いと思います。
 
 以上、法非適用・地方公営企業を対象に、置き換え作業を見てきました。この考え方は、当然、他の企業形態のケースに対しても応用可能です。

 これで、第13回コラムと、連載を終えることにいたします。      以上
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  • キーワード解説 『地方公営企業の概況』

    地方公営企業には、「地方公営企業法」の適用を受ける「法適用企業」と、適用を受けない「法非適用企業」とがあります。全国における最近の企業数、主な担当事業、経営状況は上記の表の通りです。
    なお現在、総務省の主導のもと、法適用拡大の取り組みが進められています。これは、地域に重要な役割を持つ「法非適用企業」の経営実態把握上、プラスであり望ましいことと思います。
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