第1回 21世紀前半における日本の状況2016年11月01日

1.1 国際社会の基準
国際社会はすべての面でグローバルスタンダードとなってきています。工業界においてはもちろん、昨年末まで尾を引いたTPP問題にしろ、他国との間の交渉事はすべてある一つの基準に基づきなされてきています。
一国の制度が多数の国の寄り合いによる決定事項になるためには、いろいろな国の歴史、地政学的課題を克服し、認め合い、納得するように交渉が進められなければなりません。

大学の工学教育においては、教養および専門科目を通しJABEE制度を採用しています。これは、国内において教育内容の保証をするため、審査制度が設けられ、5年から7年に一度全教育プログラムの現場における実地審査がなされるものです。もちろん、世界中の高等教育機関による互いの教育プログラムについて、認証評価に基づく保証がなされています。

工業界においては、いち早く国際的な製品開発に必要な約束事をつくり、それがうまく機能してきました。すなわち、完成品(例えば、車、テレビ、パソコン、薬品等)に対して、各パーツは国際分業により生産され、できる限り安価で大量の品が得られる生産方式を、いわゆる大企業は取ってきました。これが21世紀前半までの世界の生産工場の有り方でした。そのことは、以下の3 点で簡潔に記述されています。

 1) 部品、製品の統一規格(レベルの維持) : 品質管理(安全、安心)
 2) 安価(資材、労働力の提供) : 企業の選択、評価、資本投入
 3) 自由市場経済(規制緩和に向かう) : 習慣の変化、世界市場化

基本的には考えの方向性とそれに基づく対策法は、上述した双対の手法で進められてきており、これまでは自由主義の国と国の間ではうまく回っていたと考えられます。
ところが、グローバルスタンダードを突き詰めていけば、例えば2008年9月のアメリカ発金融市場混乱の例がありますように、世界を一つの市場に組み込むことが良いのか、あるいは保護貿易に回帰するか、課題があまりにも大きく、回答を得るのは至難なことでしょう。つまり、21世紀前半に差し掛かった現在、うまい果実を得るには混沌の中から新しい芽を探し出す、あるいは作り出すという難作業が待ち受けています。
1.2 国際的課題
国際的課題として、環境、人口、食糧、資源、エネルギー、情報、金融の問題 を考えてみますと、すべての事柄の方向性が不明瞭、不透明のようです。それぞれの課題は独立した問題ではなく、大なり小なり課題は組み合わさっており、解決方法を一義的に申し上げることは困難といえます。以下に、個々の課題について考慮すべき点を掲げておきます。

 1) 環境 : 完全リサイクル技術、CO2削減・排出取引
 2) 人口 : 教育の普及、疫病、地域戦争、難民問題
 3) 食糧 : 自給率、南北問題(経済格差)TPP、他国の土地買収
 4) 資源 : 偏り、投機の対象、国益
 5) エネルギー : 代替エネルギーの開発、原子力、産業構造の変革
 6) 情報 : 格差、安全性
 7) 金融 : 世界市場、実体経済への影響
 
以上述べましたが、これらの課題は簡単に解が得られるとは考えられません。例えば、CO2地下封じ込めの課題は2005年において、270億トン(1トンで4200円)で113.4兆円かかると云われていました。また、少子化の課題は先進国、中進国とも難問であり、いずれも働き手(人数、あるいは能力のある働き手の不足)の減少が大きい課題になりつつあります。ましてや、資源の偏り、国益などは、持てる国、持たざる国の深刻なせめぎ合いを露呈しています。
1.3 日本の今の状況
日本の現状を考えてみますと、日本国家は世界的ルールの中で生き延びる必要があり、まさに混沌の世界の中でどのような解決方法をみつけ、整然としたルールの中に入り込むかが模索されることになります。以下に掲げる3項目についてのみ考えてみます。

 1) 政治、経済 : 構造改革、規制緩和による安全安心な自己防衛
 2) 教育 : 多様性を認めつつ、一定レベルの義務化(認証)
 3) 工業(産業) : 大量生産から多品種少量へ(総量の半減が定常)、新パラダイム(ブランド)
 
まず1)については、何といっても構造改革が最初に手掛けられるべき課題と思われます。日本の屋台骨が従来のままでよいのか、と問われますとやはり変革する必要があると考えられるでしょう。すなわち、中心課題をきちんと捉えていくのには、大きさ、方向、形状といった構造強度がしっかりしている必要があり、次にそれに合った仕組みを作り、整然と荷物を整理しておく必要がありましょう。さらにいえば、規制を取り払い、効率よく、短時間に、多くの荷物を整然と片づけることが求められるでしょう。それが自己防衛に繋がり、安心安全な仕組みになっていくと思います。

2)については、大学の最も得意とする、また専門分野を伸ばすことができる範疇です。教育の基本は全ての生命体の生存と密接に関係する事柄です。すなわち、ある種が永遠に生き延びるには多様性が求められ、これがなくては個の維持は困難でしょう。従って、人はそれぞれの考え方を認め、それを相互に比較、進歩させることこそが教育の原点です。よく、国家百年の計は教育にありと申しますが、まさに生きる力の根源として、自律する個人、自分で考え通せる人間に育成することが根本課題です。

3)については、20世紀と21世紀の最も大きな違いを産業(ここでは工業)に特化して考えることができます。何といっても、産業革命以来、大量生産が望まれてきましたが、世の中が変遷していくに従い、考え方はゆっくりではありますが、確実に大きく変化が生じてきました。よく言われるパラダイム変化と呼ばれる基本的考え方の骨組みの変化です。別の見方からすると、質と量の変化が人間の生活、文化、思想に強く影響し、生活リズムが当然のごとく変化しなければならなくなったといえます。
『話が若干それますが、有機生命体にとり、リズムは大変大切な動きであり、簡単に言えば心臓の鼓動など、すぐさま予想できるかと思います。あるリズム運動から別のそれに変化が生じれば、そこで遷移が生じたと解釈され、運動方程式の解が分岐したと解釈される事柄です。したがって、社会学的なものと自然科学的なものが同じ考えで纏められる重要な事柄です。』
このような場合、生産量の総量が著しく変化し、突然別の定常状態に変わることが推察されます。

このような時代において、我々はどのような活動が求められるのか、考えてみます。おそらく、サッカー型社会(攻め、守り、連携プレイは自主判断)の活動が求められると気づくでしょう。つまり、司令塔からの指示ではなく、選手個人個人が状況を的確に判断し、それを見て、別の選手個人個人がさらに状況に応じた行動をとることが求められることになります。
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  • キーワード解説 『国際的課題』

    21世紀前半における国際的課題として、環境、人口、食糧、資源、エネルギー、情報、金融が挙げられます。これらの課題は、いずれも解決手段を選択するのに、不透明であり、またそれぞれは絡み合った事項であるのが特徴です。
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