第1回 合理的な設備投資の実行手法2016年11月01日

「良かろう・安かろう」実現のために

1. 設備投資額は、なぜ節減する必要があるのか
 何十年か前に、私がある事業の施設建設にかかわり、懸命に設備投資額の節減に努めていた時の話です。やっと相応な節減の目途が着いた頃、ある官庁筋の方に「(補助予算がついているのに)何故そんな馬鹿なことをするのか?」と言われ、驚いたことがありました。

 昨今、新国立競技場の建設に当たり、当初案が3,000億円を超す巨額が一つの理由で白紙撤回されたことは記憶に新しいところです。その折に、巨額な計画が内定した背景として、「オリンピック故に、予算はつくだろうから大丈夫と考えた」とのことを耳にして、何十年前と変わっていないことに、また驚かされました。
 勿論、オリンピックという極めて重要な大会の舞台ですから、良いものが必要なことは当然です。しかし同時に、可能な限り低廉なものでなくてはなりません。何故ならば、その施設による収入で、今後長い間毎年発生し続ける、建設資金の利息、施設の減価償却費、施設の運営経費を償うことが必要だからです。仮にそれが困難な場合は事業としては破綻であり、その負担を後世に背負わせることになるからです。
 無論、施設の建設費に対する予算の裏づけは重要なことです。しかし、その如何に関わらず極力圧縮する必要があり、特に、投資額の回収の目途がつかない額の場合は、計画の抜本的な再検討を考慮すべきでありましょう。

 このように、耐用期間が長く投資額の大きい設備を必要とする「設備事業」においては、初期設備投資額の大、小により、事業開始以降の収支の良し悪しは概ね決定すると言っても過言ではありません。
 さりとて、悪い設備ではいけません。つまり、「安かろう・悪かろう」では駄目です。また、「良かろう・高かろう」は当たり前でこれは論外です。求める答は「良かろう・安かろう」なのです。ここが、官、民を問わず、設備事業にかかわる事業経営担当者の腕の振るいどころです。
 これは、今後「地方創生」の具体的な実行段階で、最も留意されるべき要点の一つと思われます。特に、市町村の公営企業や3セクの場合は、設備を自治体が所有するケースが普通なので、とりわけ重要になりましょう。
2. 良いものを安く建設するには、どうしたら良いのか
 一言でいうならば、「その施設に期待するサービスと耐久性につき、その質を充分担保した上で、工事費の低廉化を徹底する。」ことに尽きます。
 ではこれは具体的にどうすれば良いのか?個々のケースにより答は区々でありましょう。ただ、共通する処方箋は次の4点と考えます。この4点を全て実行した場合は、4点全て何もしなかった場合に対し、設備投資額は少なくとも30%から40%以上削減の差が生じ得ると思います。
 以下一つずつ見てゆきましょう。
【1】合理的な仕様の選択
 対象設備、特に構造物については、性能を決める重要な要素である「材料の品質」と「構造形式」につき、計画段階で十分全うします。昨今世間を騒がせたマンション基礎杭問題のような事態は、避けなくてはなりません。
 その上で、対象設備の目的(当面、並びに耐用期間全体として)に沿う適切なレベルの仕様を選択します。必要以上の贅沢な仕様は避ける必要があります。
 このために、施工業者任せや「専門家による検討委員会」一任はいけません。当事者(例えば、施主の自治体と実行担当者の3セクの両者)が、当該公共的事業の設計と工期並びに見積もりができる知識と検討能力を持ち、事業のコンセプトをしっかり策定する必要があります。
 勿論、全く前例のない事業であれば無理ですが、大概の場合は前例があり、上記の作業はさほど難事ではないと思われます。要は、当事者自身が「良いものを安く建設する」ことに、徹するか否かです。
【2】合理的な規模の選択
 この領域は、業種、地域、時期などの個別事情で異なり、ケースバイケースと思われます。例えば、規模の拡大が建設費拡大に比例的に影響する場合もその逆もあり、一方、需要の拡大の見込みと確度により、先行的な投資の有利、不利の判断を迫られる場合もあります。しいて言えば、公共的事業の場合は、十分な検討の上での「固めの選択」が望ましいと思われます。避けるべきことは、楽観的なあるいは作られた過大な需要想定に、安易に従うことと思います。
【3】合理的な発注方式による業者決定
 まず、「透明な競争原理の下で、最適な業者を選定する」方針を固め、これを鮮明に表明して業者決定に望みます。業者は、当該事業を万全に遂行できる能力と実績を有する者が不可欠です。そのために、「指名入札制度」が適切と思います。指名なしの入札は、質の担保に懸念があります。
 次に、応札の内容として、総価額と項目別の内訳、並びに施工の段取りを求め、価額と技術的信頼度を総合判定して、各項目ごとの担当業者を決定する。さらに、ジョイントベンチャーの組成、キャップ企業の決定、責任の所在など関連事項を固める。発注方針と具体的条件等を整えた上で業者選定に入ります。以上の段取りは、談合排除に効果的です。
 業者決定過程でもう一つ重要なことは、実行担当者が存分に「良質、低廉」を貫けるための、外部干渉に対する防御バリアの有無、強弱です。例えば実行担当者が3セクの場合は自治体当局が設定するバリアです。これの有無、あるいは機能の度合いは、設備投資額に大きな影響を与えます。この辺は、当事者の姿勢のレベルを測る一つの物差しと言えましょう。
【4】丁寧な施工と合理的な工期での施工
 構造物の性能を決める3点の一つである「施行」は、可能な限り丁寧な実行が必要なことは当然です。明治時代に丁寧に作られた構造物は、現在もなおビクともしないものが多いとのことです。
 一方、諸般の事情で工期が長期化する場合もあります。地元折衝、予算事情など、やむを得ない理由が多いと思われますが、それは元来、計画立案から事業採択の時点において勘案されるべきでありましょう。
 いずれにしても、全施設の内ある部分は完成しているが、ある部分は未完成ゆえに供用開始できない状況は、いたずらに建設経費が嵩むのを傍観するだけです。事業は各部門毎に固有の工期があるので、供用開始可能な時期(試運転等準備期間を含む)から逆算して、それぞれの最短工期を念頭においた着工が必要です。そのため、施主は部門ごとの担当業者に対し、着工時期の指示(コントロール)をするのが効果的と思います。
 実は、4点の処方箋の中で最も設備投資額に影響するのは工期です。


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